西村主審のPK判定は本当に「誤審」だったのか?
右サイドのオスカルがDFの股を通してゴール前のフレッジにパスを通す。このボールを受けたフレッジはDFデヤン・ロブレンを背負ったままターン……しようとしたときに倒される。西村主審がPKスポットを指差しながら笛を吹く。PKだ。
クロアチアの選手たちは西村主審のところへ詰め寄って猛抗議をした。「フレッジがわざと倒れた」とジェスチャーを交えて西村主審に訴えるも、判定は覆らない。このPKをネイマールがGKに触られながらもゴールネットを揺らした。この2点目が結果的に決勝点となった。
クロアチアのニコ・コバチ監督は監督会見で「あれがPKならサッカーをする必要はない。バスケットボールをしよう」と皮肉たっぷりに語った。実際、PKの判定があるまで、クロアチアはほぼゲームプラン通りに試合を運んでいた。
では、西村主審の判定はクロアチアが主張するように、本当に「誤審」だったのか?
それは違うだろう。モニターで別角度から見れば、フレッジをマークしていたデヤン・ロブエンの左手が肩にかかっていることがハッキリとわかる。
何人もの選手同士が重なり合うペナルティーエリア内で、しかも一瞬の出来事を見極めて、瞬時に判断を下すのは極めて難しい。中途半端にしか見えていなければ、試合を決めかねないPKの判定を、ましてやW杯開幕戦では下せないだろう。
コバチ監督は「あれがPKなら100回はPKのシーンが見られるだろう」と言っていたが、開幕戦の主審の判定は、その大会の「基準」になる。世界各国の国際レフェリーは、西村主審のジャッジを参考にしながら、自分に割り当てられた試合を吹く。西村主審は「ペナルティーエリア内で手を使って止めたらファウルになる」という「基準」を示した。
もちろん、その影響は日本代表としても無視できない。センターバックとして出場が予想される吉田麻也、今野泰幸、森重真人はコートジボワールのディディエ・ドログバを筆頭に自分より大きくて強いFWとマッチアップすることが多い。そのとき、思わず手を使って止めようとしたら……。日本代表のDF陣は“反面教師”にするべきだろう。
そして確かなのは、今回の開幕戦は90分間を通じてハイレベルなプレーが繰り広げられたということ。もちろん両チームの選手たちが真っ先に称えられるべきだが、西村主審が行っていた“仕事”も忘れてはならない。
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北健一郎●文 text by Kenichiro Kita
※ワールドカップ期間中、サッカーマガジンゾーンウェブが記事内で扱うシーンやデータの一部はFIFAワールドカップ?公式動画配信サイト&アプリ『LEGENDS STADIUM』で確認できます。
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