W杯1巡目で優勝候補が苦戦した理由 「ビルドアップ」の向上と「撤退守備」の強化

ボアテング、キミッヒ、ミュラーには既視感のある守備だったはずだが...【写真:Getty Images】
ボアテング、キミッヒ、ミュラーには既視感のある守備だったはずだが…【写真:Getty Images】

メキシコは撤退守備からのロングカウンターでドイツ撃破

 撤退守備の強さが光ったのがアイスランドで、アルゼンチンがあまりにもリオネル・メッシ頼みの攻撃だったことを差し引いても、守備は固かった。メッシに対しては安易に飛び込まず、複数で壁を作るように進路を塞いでいる。空中戦は強いのでクロスボールはことごとく弾き返した。撤退守備の強化によって、ボールを支配できる側がますます点を取りにくくなっている。

 撤退守備からのロングカウンターが光ったのが、ドイツを下したメキシコだ。ロングボールをスペースへ蹴るのではなく、長いクサビをトップに当てるカウンターを何度も成功させていた。奪った直後のハイプレスをかわす技術があり、そこから間髪入れず縦へ。クサビで失わず、サポートのスピードも素晴らしかった。

 ドイツの組み立てに対しても、ジェローム・ボアテングにボールを持たせる戦法で威力を半減させていた。トニ・クロースとマッツ・フンメルスをマークし、わざとボアテングに持たせ、右SBジョシュア・キミッヒへのパスを誘導する。キミッヒへパスが渡ると、右サイドハーフのトーマス・ミュラーが中央へ移動するので、ドイツは中央に人が集まって渋滞する。奪った時点でひっくり返せばカウンターのスペースは十分。これはバイエルン・ミュンヘンに対する常套手段であり、ホッフェンハイムなどいくつかのクラブがこの方法で効果を出していた。ボアテング、キミッヒ、ミュラーには既視感のある守備だったはず。その点は、ドイツの準備不足だったとも言える。

 各国1試合を消化した時点での優勝候補を挙げるなら、スペインとブラジルだと思う。どちらも引き分けだったが、プレー内容からすると他国をリードしていた。この2カ国には、撤退守備を崩せる攻撃力がある。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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