【歴代W杯初戦の教訓】ブラジルで儚く散った「自分たちのサッカー」 調整失敗が招いた黄金期の終焉
後半に運動量が極端に低下、コンディショニング失敗を物語る
それでも日本は序盤で主導権を握り、先制することにも成功した。ボックス内で長友佑都の横パスを受けた本田圭佑は、右で止めて瞬時に左足を一閃。イメージ通りの鋭敏なシュートを叩き込んだ。その後もしばらく日本の時間が続いたから、ここで追加点が奪えていれば相手の焦りを誘発できたかもしれない。
だが前半途中からは、コートジボワールがヤヤ・トゥーレ、サロモン・カルー、ジェルビーニョらを中心に、個々の高い身体能力とスキルを活かし攻勢に出る。シュート数は、前半を終えた時点でコートジボワールの10本に対し日本は4本。プレスが効かず、徐々にラインを下げられた日本は、大半の時間を防戦に回ることになった。
後半に入ってもコートジボワールは、ウィルフリード・ボニがニアサイドに飛び込み、ヤヤ・トゥーレはあわやPKのシーンを演出する。こうして運命の分岐点が訪れた。後半17分、36歳になったスーパースター、ディディエ・ドログバがピッチに立つと、もう日本は劣勢の流れを堰き止められなかった。右サイドから立て続けにセルジュ・オーリエから絶好のクロスが入り、ボニとジェルビーニョが相次いでヘディングでゴールを陥れた。
結局1-2と逆転負け。ザッケローニ監督は「心身ともに万全の準備ができていた」と語ったが、後半の運動量の極端な低下は、明らかにコンディショニングの失敗を物語っていた。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。