【歴代W杯初戦の教訓】日韓大会で開いた歴史の扉 ベルギーとの“肉弾戦”で得た勝ち点1の意味
若手を抜擢し育てたトルシエ監督の功績
ホームの大声援を受け、最高潮のテンションで臨んだ選手たちが闘い抜いて死守した勝ち点で、トルシエらしく勇敢な戦士たちを揃えた成果とも言えた。一方、引き分けの受け止め方はベルギーのロベール・ワセイジュ監督も同様で、グループの明暗は2戦目で分かれていく。
日本の相手は格上と目されたロシア。しかし最も創造的な大黒柱のアレクサンドル・モストボイを故障で欠き、日本は微妙な判定も味方にして1-0でW杯初勝利を飾る。視聴率は日本のスポーツ中継史上2位の66.1%を記録した。4年前のフランス大会とグループリーグの展開は似ていた。だが前回は最初の2戦で疲弊してしまったのに対し、日韓大会では強豪2カ国を相手に勝ち点4を獲得し、逆に弾みをつけてチュニジアも下して望外の1位通過を成し遂げた。
プロリーグが創設され、W杯開催という大きな目標もあり、日本サッカーは明らかに上げ潮だった。当時のトルシエ監督も「欧州でプレーする選手が3人しかいないチームで、この成果には満足している」と語ったが、Jリーグも質の高い若い選手たちを次々に吸い上げる役割を果たしていた。トルシエについては賛否両論があったが、こうした活況下で若い才能を大胆に抜擢し、闘う姿勢を植えつけていったことは間違いなかった。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。