【歴代W杯初戦の教訓】初出場の日本、“本気”のアルゼンチンと「0-1」 惜敗が生んだ想像以上の消耗
日本相手に「石橋を叩いて渡った」アルゼンチンの本気度
当時アルゼンチンを象徴するのは、世界屈指のストライカーであるガブリエル・バティストゥータ、中距離パスを自在に操るフアン・セバスティアン・ベロン、それに売り出し中のドリブラーのアリエル・オルテガだった。
だが日本陣営が最も警戒したのは、圧倒的なスピードを誇るクラウディオ・ロペスだった。アルゼンチンは裏へ抜け出すC・ロペスへ、ベロンから精度の高いパスが通り、再三決定機を作り出していた。パワフルで空中戦にも長けたバティストゥータのマークは、秋田豊ですんなりと決まった。しかし、C・ロペスの方は適任探しが難航する。結局オールラウンドな能力を持ち、アジリティーの高い中西永輔に白羽の矢が立った。
中西は期待に応えてC・ロペスを抑え込み、途中交代に追い込んだ。バティストゥータやオルテガにも思うように仕事をさせず、そういう意味で日本はシナリオ通りの流れで試合を進めることができた。だが前半28分、たった一度のチャンスを逃さずバティストゥータが先制。そこからはアルゼンチンが徹底してリスクを避け、身体を張って1点を守り抜いた。
名良橋晃は、その5年後に長居スタジアムで行われたキリンカップで再びアルゼンチンと対戦し、今度は1-4で叩きのめされた。フランス大会の「石橋を叩いて渡った」アルゼンチンの真剣さを、再認識したという。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。