日大アメフト部問題は対岸の火事ではない サッカー界でも燻る“上意下達”の悪しき伝統
鉄拳制裁の下で育った卒業生が、指導者となり暴行事件で更迭
ただし高校に限らず、大学から小学校のクラブチームまで、まだ日本のスポーツ界には類似ケースが溢れている。理不尽を強要され、それでも勝利をつかみ取ったコーチや選手たちは、少なからずその体験を美化する。若いコーチたちは、成功への近道として受け継ぐし、選手たちも「心身ともに崩壊するような限界を超える経験があったからこそ今がある」と考えがちだ。
現実に鉄拳だらけのスパルタ指導が鳴り響く監督の下で育った強豪校の卒業生は、その後新任で監督職に就くと、即座に暴行事件を起こし更迭されている。
もちろん、こうした上意下達が徹底した部活を経験しても、同じ体験を繰り返してはいけないと考える指導者もいる。最近、大きな流れを作り出しているのが、かつて広島観音高校をインターハイ制覇に導いた畑喜美夫監督によるボトムアップ方式で、指導者ではなく選手たちが主体的に部活を創り上げていく。今では部活に限らず様々な現場にも導入されているが、それでもまだまだ総体的に見ると幸運なレアケースだ。
約半世紀前の東京五輪で、日本は圧倒的な練習量で世界に立ち向かった。金メダルを獲得した女子バレーに象徴されるように、寝る間も惜しんで打ち込む根性主義は、やがてアニメなどでも火がつき各スポーツの現場に浸透していった。また企業も、無理難題を文句も言わずに黙々とこなす我慢強い体育会系の人材を求めた。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。