長谷部誠が手にした「ドイツ二冠目」の価値 アンカーとして示したW杯への確信

1-1の同点とされた後、戦況を見極めて自らリベロへ

 そして前半11分、フランクフルトのFWアンテ・レビッチが敵陣でハメスからボールを奪うと、こぼれ球に反応したボアテングがすぐさまスルーパスを通し、レシーブしたレビッチがバイエルンDFの追走を振り切って右足でシュートを打ち込み先制した。しかし後半8分、ジョシュア・キミッヒのマイナスクロスからレバンドフスキがゴールを決めてバイエルンが同点に追いつくと、試合は緊張感を増していく。

 ここで長谷部は、ピッチ上で自らのポジションをシフトさせて修正を施す。相手の攻勢を感じ取った彼は、ボランチからリベロへ役割を変えることで、懸命に相手を食い止める自軍防御網を強化したのだ。これまでコバチ監督からボランチ、リベロと様々な役割を与えられるなかで、長谷部が指揮官の意図をピッチ上で汲み取れるようになっていた。

 牙を剥く盟主・バイエルンに対しては細心の注意を払い、虎視眈々と勝機を見出さねば相手を砕くことはできない。戦況に応じてシステムを可変させ、その時点での最良策をピッチ上で打ち出す。なぜ、コバチ監督が長谷部をチームの中心に据えるのか、その理由がこの一戦で一層明らかになった。

 後半37分、自らがハメスにプレッシャーをかけてこぼれたボールを、ダニー・ダ・コスタが素早く前線へクリア。このボールにレビッチが反応して相手バックライン裏へ抜け出し、GKスベン・ウルライヒとの1対1を制して2点目をゲットする。落ち着きを失ったバイエルンの面々が、主審のジャッジに過敏に反応するなか、この時の長谷部は3週間前に見せた動揺の欠片もなく、泰然とした佇まいで栄冠への道筋を見据えていた。

 アディショナルタイム、バイエルンのCKからフランクフルトのカウンターが発動し、独走したミヤト・ガチノビッチが無人のゴールへボールを蹴り込んだ瞬間に、フランクフルトの30年ぶりとなるポカール制覇が決まった。

島崎英純

1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング