Jリーグで目立つ「レンタル選手の出場制限」に疑問 本来の目的を見失っていないか

互いに全てを出し尽くして最良の試合をファンに提供すべき

 レンタルだろうが、完全移籍だろうが、シーズンが始まれば同じチームの戦力である。ところが同じシーズンチケットでスタジアムに出かけても、ある選手のレンタル元クラブとの対戦ではメンバーが落ちる。これが公平なリーグ戦、ファンサービスと言えるのだろうか。かつてJリーグではベストメンバー規約が制定されたわけだが、むしろこういう契約を許すことの方がベストメンバーの精神に反していないだろうか。

 さらに言えば、少しでも良い選手を輩出して世界との差を詰めていこうとするJリーグの立ち位置を考えても、あまりに狭量だ。相手の重要な戦力を削って勝ち点を稼ぐより、互いに全てを出し尽くして最良の試合をファンに提供することを優先するべきで、当然リーグにはそれを促し、最善の質を担保する責務がある。

 首位攻防戦でサンフレッチェ広島を下したFC東京の長谷川健太監督は、ガンバ大阪時代に一緒に戦ったパトリックの抑え方を聞かれて言った。

「それを言うとパトリックの営業妨害になるから。まあ、ウチとの対戦以外では頑張って欲しいと思います」

 レンタル選手が所属クラブと戦う時は、自分を熟知したチームメイトが相手になる。そんな不利な状況を克服して活躍できるなら、それこそが何よりレンタル移籍の成果と言えるはずである。

 欧州に目を転じれば、UEFAチャンピオンズリーグ準決勝の大舞台で、レアル・マドリードはレンタル先のバイエルンでプレーをするハメス・ロドリゲスの挑戦を堂々と受けて立った。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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