Jリーグで目立つ「レンタル選手の出場制限」に疑問 本来の目的を見失っていないか
札幌に期限付き移籍中のMF駒井 契約上の理由で保有元の浦和戦に出場できず
埼玉スタジアムで久しぶりにミハイロ・ペトロヴィッチ監督の名がアナウンスされると、大きなブーイングが沸き上がった。古巣との対戦で指揮を執る北海道コンサドーレ札幌の監督へのホームサポーターからの“ご挨拶”だった。もちろんこれは一種の儀礼なので、比較的受ける側もありがたく受け取っているようだ。かつて浦和レッズに大卒で新加入し、ルーキーシーズンにJ2降格を味わった盛田剛平が言っていた。
「浦和のサポーターは、こんな僕にもブーイングを浴びせてくれた。どうでもいいと思えば、してくれないでしょうからね」
アウェーの札幌にとっては厳しい試合となった。得点源のジェイを故障で欠き、前線でカギを握る三好康児、チャナティップが、故障明けで相次ぎ途中交代していく。そしてペトロヴィッチ監督が、苦戦の一因として触れたのが、駒井善成の欠場だった。
「浦和の左サイドに手こずったが、もし駒井がいればもう少し打開できたかもしれない」
駒井は浦和からの期限付き(レンタル)移籍選手だ。Jリーグが貸し出したクラブとの試合に出場できない規約を設けているわけではない。当該クラブ同士の契約で組み込まれる。
貸し出したクラブ側にすれば、本来の所属選手から痛手を被るのを避けたい思いと、直接対決くらいは多少の恩恵があっても良いと考えるのかもしれない。
だがレンタル移籍の本来の目的は、自分のクラブで十分な出場機会を得られない選手に経験を積ませて成長を促すことだ。貸してもらう側は、活躍しても復帰されてしまうリスクを承知で引き受けている。またそれ以上に尊重しなければいけないのが、ファン心理だ。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。