ローマ監督に“悪魔の囁き”? バルサ封じの策をリバプールにもぶつけた不可解な乱心
普通に考えれば、ローマは「引いて守る」べきだった
後方からパスをつなぐよりも、素早く前線にフィードするのがリバプールのやり方である。さらにローマがバルサに対して優位だったコンタクトプレーも強力。セカンドボールの奪い合いではむしろジェームズ・ミルナー、ジョーダン・ヘンダーソンの方が有利だった。中盤で奪われると、3バックの外にいるモハメド・サラー、サディオ・マネにつながれてしまう。こうなってしまったら防ぐ手立てはない。
リバプールは速攻の威力が凄まじいが、スペースを消されると攻撃の威力は半減する。だからプレミアリーグでトップに立てなかった。普通に考えれば、ローマは引いて守るべきなのだ。エウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督の采配は不可解の部類に入るだろう。
古代ローマの兵士は屈強だったという。白兵戦には無類に強かった。こじつけるわけではないが、ローマの人々の潜在意識にはパワー信仰があるのかもしれない。フィジカルでバルサを押し切った会心のゲームが、彼らのツボを押してしまったのか。チームのアイデンティティーの確立と欧州トップクラブ相手の大逆転劇が重なり、これしかないと盛り上がりすぎたのかもしれない。
また、ディ・フランチェスコ監督はズデネク・ゼーマン監督の影響を受けている。ゼーマンは頑なに3トップを貫く超攻撃的サッカーで知られる名物監督で、イタリアではむしろ無謀と言われていたぐらいだ。ディ・フランチェスコ監督の心中にゼーマンの“悪魔の囁き”が聞こえたのではないかと想像すると、アンフィールドでの乱心も少しは納得できるというものだ。
いずれにしてもローマはもう後がない。第2戦はバルサ戦同様に、捨て身の戦いで大逆転を目指すことになる。まあ、それはそれで迷いなくローマらしい戦いができるだろう。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。